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組織の論理 個人の都合

先日『転進 瀬島龍三の遺言』を読みました。太平洋戦争最後の生き残り参謀であった瀬島龍三氏が昨年9月に亡くなり、彼と仕事で親交のあった人が、生前彼が語っていた内容などを本にしたものです。そこでとても驚くことが書いてありました。東条英機は1944年のインパールの失敗やガダルカナルの陥落まで、ミッドウエー海戦で、日本の主力海軍が大部分壊滅したことを知らなかったことです。それを星野直樹に告げられて、東条は驚いて「そうとわかっていたなら、フィリピンにこだわったり、インパール作戦などやらなかったのに」と言ったそうです。実にミッドウエー海戦から3年経ち、戦争も終盤に差し掛かってきている時期です。

作者は瀬島にそのことを知っていたのですか、と聞くと、知っていました、と答えたそうです。そして「でも海軍にも面子があるでしょうから上には上げませんでした。」と言ったといいます。
とても信じられない話です。戦争の最高責任者の東条がミッドウエー海戦の実被害を3年も知らされていないなんてことがあるのでしょうか。このようなことで、戦争など勝てるわけありません。それ以上になんでこんな無謀な戦争を始めたのかもわかる気がします。大きな組織に属している場合、時として個人の出世が組織の存続を上回ることが起こります。

 ある意味では戦前の軍隊は終身雇用・年功序列のもっとも悪い面が出たのかもしれません。明治維新から70年から80年に差し掛かろうとしている時期です。日清、日露戦争で勝ち、国内での戦争はなく、もはや日本は盤石、まさか国が滅ぶようなことはあるまい、と危機意識も少なく、軍隊の近代化も遅れてしまった。こうなってくると組織のエリートは、大局的にものを見るより、個人の出世を優先するようになってくるのかもしれません。

 ところで日本も戦後60年を過ぎ、20年前は労働生産性も学力もトップクラスであったものが、現在先進国最下位まで落ち込んできました。この主たる原因は経営と教育のイノベーションが大幅に遅れたことにほかなりません。具体的にいえば、ITの活用が、国民レベルで低迷しているのです。ITを活用して個人がもっと高い能力を持とうと努力し、学校現場ではITを活用して教育レベルを引き上げ、ビジネスでもホワイトカラーの生産性をITを活用して高めようと考えなければならないのです。

 欧米では教育現場ではもうかなりITは導入されています。日本はこの20年間教育のイノベーションは止まったままです。経営でも米国ではSaaSを標ぼうし、どんどんITをビジネス現場に取り込んでいます。

 今、日本はまた戦前の軍隊のようにイノベーションは止まり、組織はモラルハザードを起こし、ビジネスはBRICSの成長頼みで、国内は低迷しています。何はともあれ経営と教育のイノベーションが大切なはずです。まずは企業の評価法を年に2回の中間管理職のいい加減な評価にまかせないで、システマティックにするべきです。そしてチームや組織での活動手法を研究すべきです。
 
 実は総務省も文科省も通産省もITによる経営や教育のイノベーションの重要性を言い続けてはいるのです。当社の「則天」も当初、総務省所管の情報通信研究機構の補助金をいただいて開発しました。

 たぶん、企業や国民レベルで普及しないのです。なぜ普及しないか、というと関心がないのです。

 なぜ道具を工夫し、イノベーションの得意な日本人が、時としてイノベーションを忘れてしまうことがあるのだろうか。

 それは日本人が徹底的なリアリストだからかもしれません。バブルでは、膨大なお金を稼ぎ、次にITバブル、マンションラッシュ、BRICSの台頭、不動産バブルと目先で儲かる事に飛びついていたから、実ビジネスのイノベーションが遅れてしまったのでしょう。

また国民レベルでは、あまり勉強や仕事でイノベーションを図っても、未来に希望が持てるようには感じていないのです。むしろ癒しや目先の利益にしか関心がないのかもしれません。

だから、今こそイノベーションを進めるチャンスなのです。他に儲けられることが見つからないうちに。

 さもないとまた後世に「なんでそんなことをやったのだろう」というとんでもないことを日本や企業は選択するかもしれません。

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2008年11月30日 21:27に投稿されたエントリーのページです。

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