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真言内証義と経営システム

前のブログで、玉川温泉につかって北畠親房の「真言内証義」と顕家の「奏文」を繰り返し読んだことは述べました。なぜこの二つか、というと、顕家の思想的主張はこの「奏文」にしか書かれていないのですが、「真言内証義」は比較的短文で、しかも曼陀羅についてかかれているからです。いくら読んでも、難しすぎてよくわからないのですが、なんとなくこの中に当社が5年をかけて開発している経営システム「則天」の普及へのヒントが隠されているような気がしたのです。「読書百篇意自ら通ず」という言葉がありますが、70回くらいしか読んでいないので、まだ意自ら通じていません。ただこうやって文章にしてしまえば、少しは理解が進むかな、という思いから筆をとりました、ならぬキーボードをたたき始めました。

まったくの素人の私が無造作に話すとご批判を受けるかもしれませんが、早い話がもともと仏教の目的は、人間の本質を洞察し、欲望に満ち溢れた人間を、いかに高い次元へと導くか、ということだと思います。経営も欲望に満ち溢れた人間を、いかに機能的に会社の目的に組織的に導くか、ということなのだから、仏教がヒントになるかも、と思うのです。もともと曼陀羅は仏教の概念をシステム化したものなのですから、これはこのまま経営システムとして応用することは可能です。

前回のブログで、仏教の目的が法報応の3段階で進むことにちなんで、「則天」の目的を1、改善提案 2、目標と予算の管理 3、個人の生産性という三段階に分けることに気づいた、と述べました。さらに醍醐味の5味にちなんで5つのステップに分けます。(もともと分けているのですが)情報共有モデル→ナレッジモデル→プロジェクトモデル→スタンダードモデル→フルモデルへのステップです。

「真言内証義」は過去の原因を把握しろ、と言います。人はそれぞれで、みな過去になにか背負ってきたように一人一人強烈にキャラクターがあります。天、人間、修羅、餓鬼、畜生、地獄という六道というのがあり、その人がどこから来たのか、と考えたくなる時があります。まあ大抵「人間」からなのですが。時として「修羅」や「餓鬼」からきたのでは、と思う人もたまにいます。

また四苦八苦というのがあり、「生、老、病、死」という基本のほかに「愛別離苦、怨憎得苦、所求不得苦、五取おん苦」というのがあります。愛する人と別れる苦しみ、いやな人に会う苦しみ、欲しいものが手に入らない苦しみ、自我に執着する苦しみがあるそうです。そしてこの苦しみの原因が無明という欲望から来ていると。その種類は3つあり、貪(感覚的欲望)・瞋(生存に執着する欲望)・癡(生存を断ちたい欲望)の3つの欲望から来ているといいます。

そしてこの苦しみを解決する手段が八正道と呼ばれる正見、正思、正語、正業、正命、正精進、正念、正定から成るそうです。

思うに会社の問題点は、そこに構成する人々のこういった欲望から起因します。しかも人それぞれの欲望や苦しみがあり、それが、本来目的にそって機能するはずの組織が機能しなくなるのです。

日本の伝統的な経営システムである年功序列・終身雇用という制度は、一生涯の雇用を保証し、若い時は安月給でも歳をとるに従い地位と給料があがる仕組みです。独身の時は、沢山働き、会社に利益をもたらし、歳を取ると、住宅ローンをはじめ、子どもの学費や親の介護などどんどんお金がかかります。そういうときに、とても優れた制度なのです。出世する確率も高く、会社に対し、強いモチベーションも持てます。そのために様々な個人的な欲望を抑え、会社に対する誇りと所属意識は芽生え、玉石混合ですが、上司から様々な教育を受け、会社は組織を維持することができました。

しかし今日、バブル崩壊以降、大企業を中心にリストラが大幅に敢行され、労働流動性が加速し、非正規雇用者が増加し、その結果、年功序列・終身雇用というシステムが制御していた個人の欲望をコントロールするシステムが崩壊し、企業は組織のモチベーションやモラルを維持するのが難しくなってきたのだと思います。とくに、「教育するシステム」という観点からは深刻だと思います。なぜなら年配の人が若い人を教育したら、いつ自分の立場が危うくなるか分からないからです。したがって中間管理職も、従来の役割や機能は低下し、むしろ上司にも部下にも、自分に有利になるよう働きかけ、むしろ悪い面が増えてきたようです。今日では、中間管理職を減らす組織が増加しています。夜の飲み会は、以前はある程度上司や先輩とのコミュニケーションや教育の場であったのが、今日、中間管理職のリーダーシップの欠如を埋め合わせや、組織のためより個人の利益誘導に利用されることが多くなったのだと思います。

企業モラルの低下も目先の利益に走るのもこのシステムの崩壊は要因の一つにあると思います。また国内消費市場の冷え込みが回復しないのもこのシステムの崩壊が要因のひとつになっていると思います。先日、埼玉NBCの会合で、北畑前通産事務次官の講演を拝聴してびっくりしたのですが、かつての日本の高度成長は輸出が要因ではなく、国内消費の上昇が最大の要因だ、ということをおっしゃっていました。どんなに株価があがっても、大企業が儲けても、国内消費の活発化なくして本当の景気回復はないのです。そして国内消費の活発化は未来への安心と夢がなくては実現できません。年功序列・終身雇用の崩壊が日本国民に与えたものは、未来への希望を失い、個人主義に走ること、モラルをなくすこと、そしてやる気をなくすことです。その結果個人消費は収縮し、マクロ的にみれば、労働生産性を低下させ、教育レベルを低下させているのです。

だからいち早く年功序列・終身雇用にかわるシステムを普及させなければならないのです。そのシステムこそ「則天」なのです。個人の仕事の結果を記録し、組織の貢献度を記録し、個人の知恵をシステム的に結集し、最終的には金、人、技術、情報、学習という点でシステマティックに、より正当な評価をすることができるのです。こういうシステムを企業が一般的に利用することになり、正当な評価が約束されれば、社員は自己投資や研鑽に目覚め、会社の生産性はあがります。これは以前からの私の持論ですが、次世代型経済は個人市場が、従来の消費市場に加え、「自己投資」を含めた投資市場により飛躍的に拡大するものと思います。そうなったとき、企業の生産性は飛躍的に向上し、教育力はまたOECDのトップクラスに返り咲き、日本は世界のリーディングカンパニーになるでしょう。

親房は、遠い将来、そういう日本になることを願ってこの「真正内証義」を書いたのではないでしょうか。それにしてはあまりに難しすぎます。もっと簡単に書いてもらいたいです。

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2008年11月16日 21:11に投稿されたエントリーのページです。

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