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「クイーン」という映画を見て

 「クイーン」という映画を久しぶりに地元の映画館で見ました。これは1997年8月31日パリでダイアナ妃が交通事故死したことから始まる映画です。偶然にもこの事故から2週間後、私はパリとロンドンに行っていました。まだ事故現場は生々しく、バッキンガム宮殿の門前には花束が数多く置かれていました。

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(97年9月バッキンガム宮殿の前 ダイアナ妃への花束が門に積まれている。)

 映画は、ダイアナ妃に同情するイギリス国民からの非難に悩みながら、王室を守ろうとするエリザベス女王の心の葛藤と、それを助けようとする就任したばかりの若きブレア首相とのやりとりを描いたものです。エリザベス女王はイギリス国民の良心を信じながらも、大衆を心情的に煽る大衆紙に傷つきます。

 法哲学者長尾龍一氏はケルゼン選集のあとがきにこのように書いています。
「民主主義とは絞首台に登らされる自由でもある」と。
つまり大衆は時として判断を間違える。間違えた判断により絞首台に上ることもあるのです。ナチスを選んだのも民主主義憲法下のことだし、文化大革命もソ連時代のスターリン支持も大衆の選択ミスで数千万人の命が失われました。

 大衆とはとても不思議な「意思」です。10人集まると意見はばらばら。それが1万人、100万人、1000万人・・・・と増えてくると、結構また大衆という人格が見えてくる。これは人であって人でない。意思であって意思ではない。大衆が受け入れればすぐに何億、何百億という金が動く。どんなにチープなテレビ番組でも、視聴率10%で1000万人が見、億という広告料が動く。

 太平記と同時代に北朝の花園院は「太子を誡める書」のなかでこう言っています。
「民衆は暗愚であるからこれを教導するには仁義をもってし、凡俗は無知であるからこれを統治するに政術をもってする」。そして仁義や政術を身につけるには「学びに学んで経書を身につけ、正しい知識、正しい判断ができるように日々自分を評価し、反省しなければならない」と。

 「クイーン」では女王がタブロイド紙の過激な記事に傷つきます。ある意味ダイアナ妃を死に追いやった張本人であるタブロイド紙が、まったく反省する様子もなく、今度はダイアナ妃の味方をして王室の存続の否定を国民に煽る。すべては新聞が売れるため、部数を伸ばすためという理由で、命や生活を脅かされるほうはたまったものではない。

 リーダーが判断を誤ったならば、毅然とその過ちを正すのはよいと思います。しかし目上だろうが、同僚だろうが、部下だろうが、節度、というものがあります。マスコミには人としてのその節度を忘れた報道が目に付くと、私は思います。人の痛みを考えない報道に、なんの真理があるのでしょうか。相対立する立場の双方に立って真理を追究するのがマスコミであり、あまりに節度を欠いた報道姿勢は非難されるべきだと思います。

 民主主義体制は国民の教養レベルが一定水準であることを前提として存在可能な国家のシステムです。また「自然法」にのっとった国家システムです。「自然法」とは正義にのっとる、ということです。正義という価値判断が機能せず、「利」という価値判断で国家が動き始めたならば、これも民主主義の危機といえるでしょう。

 私は、日本人は、消費という観点からは世界でトップレベルの国民だと思います。日本人は、お金を払う段になると、商品やサービスに対する目の厳しさは大変なものです。それは、日本の市場に供給する企業の商品やサービスの品質向上能力を磨きます。それゆえに、世界の市場で、日本の商品の品質レベルが通用するのでしょう。しかし政治、文化、生活といった点では、日本人はけっこう鈍感になってきているのではないでしょうか。

 ただ、「クイーン」を見て、あれだけ国民の文化水準の高いといわれている英国民の弱点を垣間見た気がします。そこにちょっとイギリスへの親近感と安堵と、もしかして追いつけるかも?という野心が芽生えました。
 
 でも、イギリスを始め、ヨーロッパの教育のイノベーション(特に IT化)は進化のさなかにあるそうです。日本にとっては、今が一番その背中に近づいているのかもしれません。このままでは、これからの10年、日本は西欧に大きく引き離されてしまう可能性があります。これは行政の問題ではありません。行政はむしろ焦っています。国民のITへの敬遠、パソコン離れに起因することが大きいと思います。

やっぱりまた不安になりました・・・・。どうしたらITはみなさ んに受け入れられるのでしょうか。映画を見ても、けっきょく最後は日 ごろの私のテーマに行き着いてしまいました。

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2007年09月17日 18:25に投稿されたエントリーのページです。

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