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2007年06月 アーカイブ

2007年06月21日

「硫黄島からの手紙」と「父親たちの星条旗」

  ゴールデンウィークに「硫黄島からの手紙」と「父親たちの星条旗」という映画を観ました。これはクリント・イーストウッドの2部作で、米国側と日本側の双方から撮った映画です。この手法に近いのが黒澤明監督の「羅生門」でしょう。人は相対する両面それぞれの心情の表現を通して、より真実に近づくことができます。まさに「学ぶ」ということの本質はここにあるのではないでしょうか。

 今回とくに驚いたのは、「父親たちの星条旗」です。硫黄島を占領した米軍の「英雄」が、戦争継続のために国債を使って資金を調達する手段に利用された様子を赤裸々に描いています。そもそもハリウッドはmade in U.S.Aの文化やコンセプト、政治的正当性を全世界に宣伝する役割を担っていると思います。「英雄」の輩出もそこから派生するものではないでしょうか(もっともこれは米国に限らず、どの国でも多かれ少なかれ、映画、ドラマ、スポーツを含め「英雄」の演出の陰には、利益、政府や時の権力者の正当性などいろいろな思惑が隠れていることが多いものですが)。

 クリント・イーストウッド監督はその陰のしかけの部分をあぶりだしてしまいました。しかも米国の立場のみならず、日本の立場からの映画もつくってしまいました。もし「父親だけの星条旗」だけであったら、日本人という東洋の命知らずの不気味な人種をいかに苦労して撃破したか、だけになってしまう。ところが「硫黄島からの手紙」を観れば、いかにその不気味な日本人が、本当は普通に家庭があり、どんなに悲しい思いをしながら戦地へ赴き、生きようとしたり、断腸の思いで生きることをあきらめたりしたかを知ることができる。

 今日、スポーツ選手、歌手・アイドル・タレント、若手経営者など様々な若者が英雄として祭り上げられ、その時々の力のある大人たちに利用されてきています。テレビをつけると英雄である「若者」がテレビコマーシャルに、バラエティ番組に、あらゆるチャネルでひっぱりだこです。一方的な心地よいストーリーをつくり、印象的に「英雄」である若者を祭り上げることで、その裏にある誰かが利益を得たり、大衆を動かせたりするのです。

 若き「英雄」をあがめる最大の弊害は、人生の実際を、多くの若者に見誤らせることです。経験は能力と同じくらい生きる上で重要な要素です。若者を簡単に金持ちにしたり、英雄にしたりする背後には、そうすることでお金儲けや目的達成をもくろむ人がいる場合が多いです。

 最近成功したある若手経営者は、そのブログや出版物で、老人を否定し、経験を否定し、釈迦やキリストまで否定しました。悟りを自己欺瞞と切り捨てました。しかし一時的にお金持ちになることで、老人を否定したり、釈迦やキリスト教や儒教など歴史英知を否定すること自体が、矛盾を生んでいると思います。なぜならまだ本人は老人を経験していないからです。ニーチェは言います。自分と同じ高みに登らなければ、その高さを理解することはできないと。若者の早合点は、若者全体を安直な方へ向かわせ、ニートやフリーターの増加など、将来深刻になるであろう問題を大量生産します。

 太平洋戦争がなぜ起きたか、というと、もちろん様々な要因はありますが、私は、人の「心の問題」として二つあげろといわれれば、「日清、日露の戦勝」と「若者の暴走」にあると思います。人は成功すると慎重さを失います。日清、日露の勝利は国民全体に「日本は戦争に強い」という自信を植えつけました。

満州事変の成功は長期の不況の脱出のきっかけとなり、米英の外圧も強まることにより、国民の支持が軍隊へと向かうようになりました。その結果石原莞爾という一中佐を日本の英雄に仕立て、陸軍の若手は第2の石原莞爾となるべく、中国戦線を拡大していきました。

 そして、日本のリーダーたちは若者をコントロールすることができなくなってしまいました。それが日米の若者が硫黄島で地獄の経験をすることにつながったのです。

 「世の中万事塞翁が馬」です。そのようなことを言い始めた自分は人生の後半にいるからなのかもしれません。ただ最近、若いころの自分の思い上がりを思い出しては後悔し、恥じ入るばかりになりました。

 そんなことを考えるきっかけとなった、2本の映画でした。

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