短歌
久方の 月にぞ秋は知られける身に染む風の音ならねども
いかにせむ さらでもかすむ月影の老いの涙のそでにくもらば
誰かはと 思うものからふるさとのたよりまたるるはつ雁の声
かくてなど すまざりけると山里の月見る秋の心にぞとふ
いほりさす 宿は深山の影なれば寒く日ごとにふる時雨かな
岩清水 清き流れをたのむより濁らじとこそ思いそめしか
さきそむる 花にしらせじ世の中の人の心の移りやすさよ
男山 昔のみゆき思うにもかざしし花のはるぞわすれぬ
山深く 結ぶ庵もあれぬべし身のうきよりは世を嘆くまに
いかにせむ 春の深山の昔より雲居間でみし世の恋しさを
嘆けとて 老いの身にこそのこしけめあるは数々あらずなる世に
ふりにける 身にぞおどろくあわゆきのつもればきゆる色を見るにも
吉野山 雲井の桜君が代にあふべきはるやちぎりおきけむ
いかにして 老いの心を慰めむたえて桜のさかぬよならば
まださかぬ 梢あればと頼まずば移ろう花やなお憂かれまし
幾里の 月にこころをつくすらむ都の秋をみずなりしより
岩清水 清き流れをたのむよりにごらじとこそ思いそめしか
昔みし 平野にたてるあや杉のすぎにけりとてわれなわすれそ
先立し心もよしな、なかなかに 浮世のことを思い忘れて
おしからぬ わが身のかふる秋ならばさてくらすべき今日の暮れかは
おしむべき ことわりならぬ身をあきのくるるしもなどものはかなしき
はれくもる 程だにもなく山のはの嵐よりふる初時雨かな
今よりや 人めかれなむくさの原霜おきそへて冬はきにけり
霜枯れは さすがに残る秋の色を跡見せぬまでふれる雪かな
まつひとの 跡みるまでもつもらねどこころ空なるけさの初雪
ふみわけて とふ人あらばふりつもるゆきより深き跡はみてまし
なげきつつ くれ行くとしを世に振ればなおいそぐとや人のみるらむ
いたずらに 過ぎる月日をせめてなどまてとばかりも契らさりけむ
そのままに たえなばいとどうかるべき一夜の夢を人に語るな
ことわれよ 神々ならばゆふだすきかけてちかいしすえのことのは
かよいこし 人は軒ばの夜はの月たのまぬ松の木のまにぞみるえる
うき人は おもいもいでじひとりわが心をやりてみつる月かは
なげけとて 老いの身こそのこしけめあるはかずかずあらずなる世に
8年へし 波の枕のよるの夢さめれば花のうてななりけり
そのままに たえなばいとどうかるべき一夜の夢を人にかたるな
ひとりみて なぐさみぬべき花になどしづこころなく人をまたるる
九重の 御階のさくらさぞなげに昔にかえる春をまつらむ
まださかぬ 梢あればとたのまずばうつろう花やなほうからまし
春をへて 涙ももろくなりにけりちるをさくらとながめせしまに
小山田の 猪苗代水のひきひきに人のにごる世ぞうき
うたたねの 夢には聞きつ郭公思いあはする一声もがな
わすれずば いざかたらはむほととぎす雲いになれし代々の昔を
わがうえに月日は照らせ神路山 仰ぐ心に私はなし
あはれとは しるやしらずや時鳥ふりぬるねにはともになくとも
松風の 音するかたの山影は思いやるよりすずしかりける
萩の戸の 昔の秋の面影に今だにかかる袖の露かな
野べみれば 秋は千種の花がたみめならう色にわきぞかねぬる
ふるさとの なしてこそみめ宮城野の萩の錦をきてもかへらば
かぎりなき 蟲のうらみにたぐへてもつきぬは老いのなみだなりけり
さびしとは 太山隠れの杉の庵松の軒もる夜半の月影
幾里の 月に心をつくすらむ都の秋をみずなりしより
かくてなど すまざりけると山里のつきみる秋の心をぞとう
なにしおはば 雲井の秋の夜半の月そとよりもさぞてりまさるらむ
待つ申し やまのあなたの里人になりてぞ月はみるべかりける
なおいかに ながめられましもの思う心のうちを月にとはれば
ことわれよ 神々ならばゆふだすきかけてちかいしすえのことのは
かよいこし 人は軒ばの夜はの月たのまぬ松の木のまにぞみるえる
うき人は おもいもいでじひとりわが心をやりてみつる月かは
いにしえの 竹の園より家の風ふきしふかばよよにかはるな
いづかたも 道ある御代のちかければまたもこえなむ白河の関
これもみな わすれがたみになりぬべし思いのほかの紫のかりいほ
山ふかく むすぶいおりもあれぬべし身のうきより