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2008年09月29日

バランスシート経営からの脱却を

今、リーマンブラザーズの破綻、メリルリンチの買収、国内でも4半期前まで空前の利益をだしている企業が突然破綻するなど、従来ではありえないことが起きています。さらに株価の下落は止まらず、底なしの様相を呈しています。

1929年以来の大恐慌の到来が、本格化しそうです。具体的にはどういうことなのでしょうか。
それは従来型の経済のシステムの崩壊が始まったことを示唆しています。 従来型の経済システムとは、バランスシートを重視する経営を基本とする経済システムです。 総資産はいくらか。その中で利益はいくら出しているか。その数字により、銀行はその企業の融資額を決め、利息を決め、証券市場は株式公開をさせるかどうかを決めます。

企業において、株式公開がもっとも儲かるものであり、その株式公開は、売上規模を求む経営であることです。 もともと証券会社は上場にあたり、手数料収入が収益源となるため、発行株式の多い企業、すなわち、規模が大きいほど利益が大きくなるので、売上の大きい会社を上場させる傾向にあります。 急拡大する企業は、消費市場でも法人市場でも突然大きなニーズが現れ、その市場をいち早く押さえた企業です。

間接的ではありますが、日本の十指に入る経営者が、その部下である私の友人にしみじみ言っていたそうです。自分の財産はほとんど株式市場で儲けたようなものだ。実際のビジネスはどんなにヒットを出してもたかが知れている。その会社は創業以来、常に3割以上の利益を叩き出し、大ヒットをいくつも叩き出した企業です。この言葉は、株式市場がいかに実ビジネスからかい離していたかを物語ります。

その結果、株式市場で利益を出す企業、つまりファンドに信じられないほどの金があつまり、1993年以降、米国は金融のグローバル化を強め、世界中に実業の10倍近い金が動きました。

しかし、そのような証券市場での価値に見合う企業が雨後の筍のように出てくるのでしょうか。そのような中で、証券会社は利益をだすために、似た会社で、売上規模がある程度大きくなったところで上場させ、自社の利益拡大を図ろうとしたのです。

ところが、二番煎じ、三番煎じの会社は、一番煎じに比べ市場シェアも抑えられず、またオリジナリティも薄いため走り続けるには限界があります。そこで様々な無理をすることで、悪くすると破たんの原因にもなります。

そして短期的利益に執着することが、長期的戦略においてはデメリットであることも増えてきます。

もともと誕生してから早く上場する会社は、その成長力はまさに実力でしょう。しかし商品ラインナップや事業領域の幅は狭く、本業の行き詰まりから次の手を打つことが難しくなります。攻撃型のボクサーが以外に防御に弱いように。

本当に企業の評価は、その売上や利益、そこにいる人材や業歴で把握することができるのでしょうか?会社は固形物ととらえられてはいないでしょうか。会社も、人や組織で構成されている流動物です。どんなに業歴が華々しくても、利益が上がっていても、所詮企業の血液がお金である限り、流動物です。

金融界の英雄であるジョージ・ソロスでさえ、金融が資本主義を滅ぼすと警告をしました。企業は常に買収におびえ、株価の維持に固執するあまり、本来、山あり谷ありの業績をいかにうまくコントロールするかが経営の手腕のはずなのに、右肩あがりの経営に執着するあまり、企業組織の破壊、社員の心理的破壊、企業間の破壊、市場の破壊を招く結果となるのです。

そして最近、米国のサブプライムローン問題に端を発し、金融市場のグローバル化にかげりが出始め、いよいよ崩壊がはじまりました。私たちはいまこそ実業と金融の関係をもう一度見直す時期にきているのではないでしょうか。

本来金融は実業を発展させるための潤滑剤のはずです。近代の先物取引は江戸幕府が大阪堂島にひらいたのが先駆けといわれていますが、これも初めは米の値段を、安定的に取引するための手段だったはずです。渋沢栄一や万俵鉄平のように、みんなが得をする経営者を応援するために金融市場はあるべきです。

企業経営は波乗りです。つまりいかに人を育てるか、お金をいかにうまく生み出し、投資し、社員や社会に還元していくか、を私心なく采配できる経営者にお金が集まるべきでしょう。なぜならそういう経営者こそ本当の付加価値を生むことができるのだから。

今日行われている金融資本と、本来ある資本主義では、本質的なところで相対するものです。本来の資本主義は皆で金を出し合い、利益を生みだしたら利益を分かち合うものなのです。

何度も引用して恐縮ですが、そのことはすでに100年以上もむかし、渋沢栄一が看破しています。「商売は商戦にあらず」。今の言葉では、「ビジネスは戦いにあらず」でしょう。偶然、浦和の小さな古本屋で見つけた、くしくも大恐慌の1年前、1928年発行の「処世の王道」という渋沢の著書の中に書いてありました。野村徳七を例に出して、相場は儲かった人がいれば損をする人も必ず出る、だが買った人も、売った人もみんなが得をするのが商売だ、と言いました。私はこの言葉が渋沢の言葉の中で一番好きです。

人と人は争うのではなく、協力しあうほうが絶対得です。競争したり、戦ったりする暇があれば、お互いの良いところを見出し、より良いものを作るほうが良いはずです。企業もしかりです。そのための切り札は組織における情報共有と公平平等な分配、そして人材教育です。甘い?と思われる方もいるかもしれません。しかしその考えは間違いです。協力しあいながら本当の付加価値を出すことのほうが、はるかに地道な努力と時間と忍耐と覚悟が必要なのです。

だれでもみな手持ちの金と時間は限られています。そのなかで付加価値を出すことは並大抵なことではないのです。その学習は、人が生きるうえでもっとも難しく、もっとも重要なのだと思います。その学習こそ、「経営」です。「経営のコツここなりと気づいた価値百万両」と松下幸之助は言いました。「経営」は経営者だけでなく、社員一人ひとり、いえ国民一人ひとり皆が学ぶものなのではないでしょうか。

経営者は、私心なくお金をあるべき自然の流れに従って流さなければなりません。自然を「天」と置き換えれば、「則天」です。つまり「則天去私」が経営者のめざすべき心がけなのだと私は思っています。
この言葉は私の中学時代からの座右の銘でもありました。

金融資本が世界中を跋扈し、穀物にも手を伸ばし、それがため、餓死する人もでる始末です。天はこの狂える人間の愚行に天罰を加えたのでしょう。つまり金融というバベルの塔を壊したのです。

それでは次はなにか。もちろんまた悪魔の手品(マジック)が現れるかもしれません。しかし、今言えることは、「実ビジネスは壊れない」ということです。まじめに働き、身の丈に合った利益を出し、常に改善をおこないながら再投資する。この資本主義の原点のビジネスはこの危機に一緒に崩壊することはないでしょう。

それではいままでのように働いていればよいのか?否です。原点のビジネスを維持し続けられないから、問題がおこるのです。

大切なことは、利益を出すシステムを整備することです。それはなにか?資本主義の原点から考えれば「イノベーション=改良」です。

「もの」が付加価値を生み出す時代は終わったのです。否、「もの」が付加価値を生み出すのは若い急成長国家です。日本においては価格競争から「もの」だけでは利益を出しにくくなるでしょう、これから付加価値を生み出すのは、人に依存するサービスであり、知恵によって作られた商品です。

また、破たんする会社の特徴は売上やニーズより、投資や開発を先行させる傾向があります。 まず売上をあげること、ニーズを発掘することを全社が一丸となって進めることが重要ではないでしょうか。

企画部門、開発部門、総務部門など内勤でもSEO対策やメールで新規開拓も可能です。しかしその活動が継続的かつ効果的なものにするためには、内務者の明確な活動記録や評価するシステムが必要です。

日本における中小企業で、いきなりグローバル戦略は難しい。自社商品やサービスを究極まで質を上げ、そのノウハウを海外展開することが重要。

そのためには改善提案が必要。グループウエア上でも、日報の記入にしても、改善提案しやすいシステムをつくることが必要。

ノウハウや技術をシークレットにすることは、その普及に歯止めがかかります。これからは技術をオープンにし、みんなが活用できるようにし、自分たちはその進化力の速さとクオリティで他の企業との差別化をすることが必要で、一人一人が常に仕事の改善改良を続けるシステムに、組織をかえていかなければなりません。

そうはいってもなかなか、通常の業務のなかに改善提案やシステム導入はできません。理由は評価システムが大雑把だからです。人は自分の働きが、報酬に見合わなければ働きません。それを年に2回、中間管理職まかせで決定することは企業の進歩を促進しません。
採算、人事、学習、技術といった項目で定常的に評価することが、人をまじめに一生懸命に働くのです。

ヒットが出ますように、儲かりますように、という運頼みの経営から全員が知恵を出し合い、どうやって利益がでるかを工夫しあいながら、粘りの頭脳経営をしなければなりません。

なぜ経営は実態を把握しずらいのでしょうか。まずバランスシートで本当に利益があがっているかどうか、把握することはできません。その商品やお客様、サービスが利益を上げているかどうかは、通常の販売管理ソフトでは、期をまたいでいるので解りにくいのです。

従って、その商品やサービスがスタートしてから、どれだけのコストと時間がかかり、どれだけの利益をだしたか、明確になるシステムが必要です。

そしてそのプロジェクトが利益を出しているかどうか、だれが、どの程度貢献しているか、という参加している人の貢献シェアが明確にならなければなりません。

だれかが仕事をしたら、その結果が明確にならなければ、仕事のイノベーションは生まれません。しかし従来の経営手法では一人一の仕事の結果が明確化されていないのです。

個人の仕事の結果を明確化する個人生産性のシステムが必要なのです。上司によるいい加減な評価は、人材の資源を有効に活用することはできません。

「行き詰ったら原点に帰る」昔から言われている原理原則です。巷では、億万長者になれる、とか楽して儲けるとか甘い言葉の散乱した本が店頭に並べられています。しかし今度の金融危機はそういう甘言がみなまやかしであることを証明しています。当たり前のことをコツコツすることが大切なのだと思います。

改善改良の継続、公平平等の分配、個人生産性の向上。もちろんなかなか実行することは難しいです。当社でも3年前から取り組んではいますが、なかなか理想的な状態にはなりません。

しかしたとえば当社では間接部門でもメール営業やSEO対策をおこなってもらっています。それもきちんとそういう行為が実を結べば、結果として評価される仕組みなので、みな続いているのだと思います。

そして自分の仕事の結果が出て、報酬として受け取ったとき、働くよろこびとモチベーションにかわるのでしょう。

利益を出すシステムづくりを早急にしないと、「念じていれば神風(キャッシュ)がふいてくる」状態になってしまいます。

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